地方の中小製造業で外国人正社員を雇用するケースが増えていますが、地域社会の理解不足や適応の課題に直面する企業も少なくありません。
この記事では日本ミャンマー支援機構アドバイザーの深山沙衣子が、外国人技術者が地域に溶け込み、企業と地域が共に成長するための具体的な方法について、実際の成功事例を交えながら解説します。
日本で生まれた人々にとって外国人労働者とは、日本経済の維持のため、医療制度や年金制度を維持するため、自分たちの生活が貧しくならないようにするために、労働力として来てもらっている存在ではないでしょうか。外国人労働者との関わりは、すべての人にとって他人事ではありません。外国人と日本人相互の利益が結びつく場所を探り続けなければならないのです。
外国人技術者が地域社会に適応していけば、孤立を感じにくくなり職場環境や生活環境への満足度が向上します。職場への定着率が高まれば、離職のリスクが低下し、結果的に採用コストを削減できます。可能な限り、日常生活の困りごとの相談に乗り、外国人技術者が地域社会に順応できるようにサポートしていきましょう。
外国人技術者が積極的に地域活動に参加することで、地域社会からの信頼を得やすくなります。このような地域との連携を通じて、「多文化共生を推進する企業」や「地域に根差した企業」という社会的イメージを向上させることができます。まずは、地域の清掃活動や挨拶運動などに、日本人従業員と外国人従業員が一緒に参加することから始めてみてはいかがでしょうか。
外国人技術者が地域社会に適応することで、地域住民や企業間に新たな交流が生まれます。様々な人々との交流が深まれば、新しいアイディアが生まれたり、埋もれたニーズに気づくことができたりすることは多いです。外国人雇用を通じて、企業と地域社会に新たな接点が生まれ、ビジネスチャンスが広がっていく可能性があります。
外国人技術者が住んでいる地域のゴミ分別ルールを理解できずに、トラブルが発生したことであります。当然ですが、外国と日本のゴミ出しのルールも文化も違います。日本語があまりできなければ、各自治体でも異なる日本の複雑なゴミ分別を理解することは困難です。曜日ごとに図解で説明されたものを渡し、すぐに見れる場所に貼るようにアドバイスしています。自治体が発行しているビルマ語のゴミ出しパンフレットをまとめたページのリンクを下記に記載しましたので、ご参照ください。
NPO法人リンクトゥミャンマー 資源・ごみの分け方・出し方:https://www.npoltm.org/garbage/
外国人技術者にとって日本は外国、頼れる人が近くにおらず孤立してしまうことがあります。地域イベントなどにも参加しづらく、知り合いを作ることができなければ孤立感が増大します。企業が参加する地域の奉仕活動には、積極的に外国人を起用し、地域社会と外国人の接点が生まれるきっかけにしていきましょう。ただし、外国人がそれを望まない場合もありますので、必ず本人に確認します。
外国人が日本の地域社会における暗黙のルールを知らず、大声で会話をしてしまい騒音問題が拡大してしまったことがあります。近隣に住んでいても「なんかよく知らない外国人」のままであれば、誤解も生まれやすく問題が大きくなってしまいます。外国人が入居した近辺に、経営者自らが一緒になって挨拶周りをした事例があります。近隣住民も新たに越してきた外国人の身元がわかれば安心感も生まれ、大きな問題に発展することを未然に防ぐことにつながるでしょう。
地域で開催している祭りやイベントへの参加を推進し、外国人技術者と地域のコミュニテイの交流の機会を作りましょう。外国人が多く住む地域では、国際交流を目的としたイベントを地域が主催していることもあります。
ミャンマーのチキンカレー「チェッターヒン」や、魚介スープにそうめんに似たお米の麺を入れたミャンマー料理「モヒンガー」を、外国人技術者と日本人技術者が共同で作り、出店した事例があります。こういったイベントへの参加は準備も大変ではありますが、当日は大盛況で料理はすべて完売、地域の皆さまから「おいしかった」「ミャンマー料理は初めてだったけど食べやすい」など嬉しいお声をたくさんいただき会話も弾み、外国人技術者も日本人従業員もとても喜んでいました。
外国料理の提供を通して、今まで接点のなかった外国人技術者と地域住民との交流が生まれ、地域共生に寄与することができました。また、外国人技術者と日本人従業員のコミュニケーションも深まり、その後の仕事にも生かされています。
外国人技術者に、多言語対応で解説するガイドブックやアプリを紹介し、公共交通機関や医療機関の利用方法なども伝えていきましょう。地元の自治体のHPを調べたり、市役所や県庁に該当するような資料がないか、まずは問い合わせてみてください。多言語での案内を充実させている自治体もあります。総務省消防庁のHPには、訪日外国人のための救急車利用ガイドが掲載されています。
総務省消防庁救急お役立ちポータルサイト:https://www.fdma.go.jp/publication/portal/post1.html)
該当言語の資料がない場合は、イラスト付きの資料を、翻訳アプリを使って、日常生活に必要な情報を伝えることもできます。外国人技術者がこまったときに、いつでも相談できる環境を整えてサポートしていきましょう。
また、はじめての土地に住む外国人技術者のために、地域の便利な施設やサービスも紹介しましょう。来日したての外国人技術者の中には、日本の食に馴染めない方もいます。外国食材が手に入りやすいスーパーやオンラインショップをお伝えすると、喜ばれることも多いです。
当社では、外国人技術者のサポート方法がわからない、と企業様からご相談を受けた場合は、NPO法人リンクトゥミャンマーと共同して生活サポートをさせていただきます。
(画像:総務省消防庁作成、訪日外国人のための救急車利用ガイド)
仕事をスムーズに行うためには、日本人従業員と外国人技術者との意思疎通が成り立たなければなりません。言語でのやり取りにつまづき、外国人技術者への企業内での日本語研修をしたいと考えたときは、地域の日本語学校と連携することも検討してみましょう。いくらか費用は発生するかもしれませんが、従業員を育てるための必要経費と捉え、これから長く外国人技術者に働いてもらい、企業が安定的に継続、成長していくことを目指してみませんか?外国人技術者を育てる先行投資は、きっと企業にとってプラスになって返ってきます。
また、オンライン日本語学習ツールやアプリを導入し、忙しい技術者でも自主的に学習できる環境を整備する手段もあります。知らない異国の言葉を勉強し、働きに来ている外国人技術者たちは、学ぶ意欲や努力をきちんと持っています。企業内だけでどうにかしようと思わず、ぜひ色々な手段を活用して日本語教育を支援していきましょう。
外国人技術者が地域社会に受け入れられるには、地域住民と交流するきっかけが必要です。地域のイベントやボランティア活動への参加を促したり、企業が主催で日本人社員や外国人技術者が一緒になり、地域住民と交流するワークショップを開催するのも効果的です。ワークショップ後の懇親会や自由交流タイムを設け、仕事以外の場でのつながりを生むようなきっかけづくりをしていきましょう。
外国人技術者と地域住民の交流をきっかけに、地域と良好な関係を築くことで、確実に企業の印象は良くなり信頼も深まり、認知度も高くなります。関わる人が多くなれば、そこから、新たな仕事の依頼やアイディアが生まれていくことにつながります。
ただし、その外国人技術者がどうしたいのか?という意思も、必ず確認するように注意してください。日本人にもイベントが好きな人や苦手な人がいるのと同様に、その外国人技術者の個人の性格も考慮する必要があります。それでこそ、日本人や外国人も関係なく、働く人を大切にする企業の姿だと感じます。企業に自分は大事にされている、と感じれば、外国技術者も日本人と同様に長く働き続けてくれます。
企業内に「ダイバーシティ推進委員会」を設置し、外国人技術者の支援体制や地域連携施策を定期的に議論する。また、社内外の意見を反映させるため、外国人技術者を委員会のメンバーとして参画させる。
少子高齢化が進む日本において、外国人材が重要な役割を果たしていく時代はすでに到来しています。外国人技術者が定着すれば、新たな視点が生まれ、多文化市場の開拓や新製品開拓など企業の可能性が広がります。外国人が地域社会に馴染み「ここで長く働きたい」と思うことは、企業と地域双方にとって持続可能な成長を生んできます。これらの実践ステップが、一人で日本に来た外国人が地域と共生していく第一歩となるよう、願います。
日本人アドバイザー 深山沙衣子(みやま さえこ)
1979年東京都生まれ。神奈川県で育つ。立教大学文学部心理学科卒業。特定非営利活動法人(NPO)リンク トゥ ミャンマー理事長。
<経歴>
学生時代から東南アジアを旅行し、東南アジアと日本をつなぐことに興味を持つ。マレーシア国営企業子会社の日本支社にてLNG(液化天然ガス)輸入貿易事務に携わる。
リクルートの広告代理店にて求人広告や新聞広告制作に従事したのち、出版社で雑誌の編集記者となる。2010年頃より本格的にフリーライター、ジャーナリスト活動を開始。
2011年、ミャンマー人の難民として日本に来たTUN AUNG KHINと結婚。自身の執筆活動を通じて、東南アジアで最も未知の国ミャンマーを表現することをテーマにする。
2012年、日本ミャンマー支援機構株式会社をTUN AUNG KHINと他メンバーとともに起業。ミャンマー人の日本におけるトータルサポート(就職・留学・法的手続き、書類作成、仕事紹介、住居紹介、観光案内など)および日本企業の進出支援を行う。
<本の購入について>
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